
Episode #1949
制約を楽しもうノベーション(1949回)
芸術家のフィル・ハンセンさんのTED講演「Embrace the shake」に、心が震えました。 彼は点描画に没頭していた頃、手に震えが生じ、神経の障害によって、それまでのように描くことが難しくなりました。 一度は芸術から離れますが、その後、「震えをなくす」のではなく、「震えを受け入れる」方向へ発想を転換します。 そして、震えそのものを作品づくりに取り込み、新たな表現を次々と生み出していきました。 講演の中で、ハンセンさんはこう語っています。 「震えを受け入れる事は芸術やテクニックだけの問題ではないからです。それは人生や生きる技術に関係していたのです」 そして、 「限界を創造性の源ととらえることで私の人生は変わりました」 さらに、制約について考えることは、マンネリから抜け出し、カテゴリーや一般に認められた規範そのものを問い直すことにつながると語り、最後にこう投げかけます。 「制約を楽しもう」 ここから私は、3つのことを思いました。 1、誰にでも制約は必ず訪れる 2、制約は創造の源である 3、制約を楽しむために 1、誰にでも制約は必ず訪れる フィル・ハンセンさんにとって、それは手の震えでした。 しかし、私たちにも、いつか必ず制約は訪れます。 例えば「老い」。 若い頃にはできたことが、できなくなることもあります。 そんな時、 「昔のようにできれば」 と、失ったものだけを見るのではなく、 「今の自分だからできることは何だろう」 と問い直すことができるのではないでしょうか。 制約をなくしてから人生を始めるのではなく、 制約のある自分から、もう一度始める。 そんな生き方もあるのだと思いました。 2、制約は創造の源である 制約は、その人だけの「個性」につながることもあるのではないかと思います。 例えば、福島智さん。 福島さんは、視覚と聴覚の双方を失う中で、「指点字」というコミュニケーション方法と出会い、人とのつながりを広げ、研究者としても活動されてきました。 もちろん、失うことや不自由そのものを美化することはできません。 しかし、 失ったものだけを見るのか。 それとも、 その経験によって得た、自分だけの視点から何ができるかを考えるのか。 そこには大きな違いがあると思います。 人と違う条件。 人と違う経験。 人と違う不自由さ。 それは弱さであると同時に、 まだ誰も持っていない「問い」を持っている ということでもあるのかもしれません。 新興国国で起こるリバースイノベーションも、インフラが整っていないからこそ、起きるイノベーションの一つと思います たとえば、電気を使わなくても、気化熱で冷える冷蔵庫が、今度は、先進国の被災地域で使われたりする 制約は、多様性につながる。 そして多様性は、新しい創造の入口になる。 だから私は、 制約は創造性を奪うものではなく、創造性にその人だけの形を与えるものなのではないか と思いました。 3、制約を楽しむために とはいえ、 「制約を楽しみましょう」 と言われても、簡単ではありません。 苦しいものは苦しいし、怖いものは怖い。 だから最初から、制約を好きになる必要はないと思います。 まずは、 その制約の中で、一歩だけやってみる。 ハンセンさんも、震えがなくなってから芸術を再開したのではありません。 震えのある自分のまま、新しい表現を探し始めました。 そして、むしろ、さまざまな制約をあえて、自分に課すことによって、新しいイノベーションを起こそうとさえしています 制約がイノベーションを起こす種なのであれば、どんどん制約をつけることによって、もっと面白いイノベーションが起きるのではないかと、楽しむ方向へ持っていく また、もう一つ大切なのは、 一人で制約と闘わないこと ではないでしょうか。 自分では「できない」と思っていることを、 仲間が、 「こんなやり方もあるんじゃない?」 と見せてくれることがあります。 自分には欠点にしか見えないものを、 誰かが、新しい可能性として見つけてくれることもあります。 制約を楽しむとは、 制約そのものを無理に喜ぶことではなく、 制約の中にも残されている可能性を、仲間と一緒に探し続けること さらには、あえて制約をつけることで、新しいイノベーションの種を見つけにいくこと なのかもしれません。 人生には、これからも制約がやってきます。 できなくなることもある。 失うものもある。 思い通りにならないこともある。 そんな時、 「なぜ、こんな制約があるんだ」 だけではなく、 「この制約があるからこそ、何が生まれるだろう?」 と問い直してみる。 制約をなくしてから始めるのではなく、 制約があるからこそ始まる創造もある。 「今を楽しもう」ではなく、 「制約を楽しもう」 そんな世界をつくっていきたいなあと思いました。 一言ていうと 制約を楽しもうノベーション。 そんな話をしています 参考:Phil Hansen, “Embrace the shake,” TED2013, February 2013 TED公式「Phil Hansen: Embrace the shake」 https://www.ted.com/talks/phil_hansen_embrace_the_shake






