
Episode #84
講座第1回目、元薬剤師として睡眠について話してきた
#81【ひとり回】 今回は、初めて担当した 大人向け講座 を終えた直後の振り返り回。子ども向けのPC講座から始まったはずが、いつの間にか「薬剤師として何か話してほしい」という依頼につながり、選ばれたテーマは 薬との付き合い方と睡眠 でした。 講座の内容そのものを振り返りながら、「人前で知識を話すとき、信頼ってどうやって作るんだろう」「参加者が発言しやすい空気って何なんだろう」と考え始め、気づけば講師業と人間関係と締切の話まで広がっているようです。 ▪️「薬剤師です」を、どうやって信じてもらうのか 講座の前半は、薬の基本を扱う時間。ただし、その裏にはひとつの狙いがありました。それが 「まず話し手として信頼してもらう」 こと。 肩書きとして「薬剤師です」と言うだけなら一瞬ですが、本当にこの人の話を聞いて大丈夫なのかは別問題。薬剤師免許証を掲げるわけにもいかず、白衣姿の写真を出すべきだったのか、薬局の写真があれば信頼感は増したのか……講義を終えたあとになって、なぜか「信頼の作り方」が気になり始めています。 ▪️○×クイズなのに「答えは△です」でブーイング 講座は一方的な講義ではなく、かなり 参加型 。「○だと思う人?」と手を挙げてもらい、そこから話を広げていくスタイルです。 とはいえ、人前で最初に発言するのは難しいもの。話し手は、よく目が合う人、話したそうな人、今はそっとしておいた方がよさそうな人を見ながら、「誰なら最初の一言を出せそうか」を探していた様子。10人前後でも全員のリアクションを拾うのは思った以上に難しく、講義なのにかなり対人センサーを使う仕事だったようです。 そんな空気がほぐれ始めた頃に登場するのが、「食後の薬は、食事を抜いたら飲まない方がいい。○か×か?」という問題。 答えはまさかの 「△。薬によります」 。○×クイズだと言っておきながら△を出したことで、参加者からブーイングが発生します。さらに「コーヒーやエナジードリンクで薬を飲んでもいい?」でも再び△。 ところが、このブーイングがかなり嬉しかったらしい。最初は受け身だった参加者が、後半には発言し、質問し、ついには話し手の仕掛けにツッコミを入れるようになっている。 「こっちが投げたものを、ちゃんと投げ返してくれる」 ことへの喜びが、じわじわ語られています。 そして気づけば、「友達になりやすいのも、こういう仕掛けを拾ってくれる人なのでは」という話にまで到達。講座の話だったはずが、掛け合いそのものが生活の豊かさの一部なのでは、というところまで考えているようです。 ▪️薬を完璧に管理するより、困った時の扱い方を知る 薬パートで繰り返し出てくるのは、 「できなかったことを責める話ではない」 という考え方。 薬が余る。飲み忘れる。飲むタイミングが分からなくなる。そういうことは普通に起きるので、「ちゃんとしてください」で終わらせるのではなく、ピルケースやお薬カレンダー、スマホのアラームなど、忘れにくい仕組みを一緒に作ればいい。 薬局勤務時代には、毎日薬を飲む若い患者さんと、その場でスマホのアラーム設定まで一緒に考えることもあったそうです。思い返せば今回やっていることも、薬局で患者さんと繰り返してきた会話の延長線上にあるようです。 「全部医療者に決めてもらう」でも、「全部自分だけで判断する」でもなく、 自分の状態を観察して、必要なところで相談する 。この辺りが、講座全体の土台になっていたようです。 ▪️本題は睡眠。「質」の前に、そもそも寝ているのか そして後半、ようやく本題の睡眠へ。一番伝えたかったのは、かなりシンプルな話でした。 睡眠は、まず「質」より「量」。 「短時間でも質のいい睡眠なら大丈夫」という便利そうな言葉より先に、そもそも必要な睡眠時間を確保できているのかを見る。眠れない場合も、寝つけないのか、途中で何度も目が覚めるのか、朝早く起きてしまうのかによって困り方は違います。 睡眠薬にも短く作用するものから長く作用するものまであり、一度で完璧に自分に合う薬が見つかるとは限らない。飲んでみる、様子を見る、記録する、次の診察で伝える。そのサイクルを回していく話へつながります。 さらに、眠っている間には 記憶の整理や学習、技能の定着 も行われているという話をしたところ、学生の参加者から「一夜漬けをよくするんですけど、意味ないってことですか?」という質問が。 申し上げにくそうに「この理論でいくと……」と返す講師と、「やっぱり」と受け止める学生。講義資料の中の知識が、一瞬で誰かの生活に接続される。こういう瞬間が、かなり楽しかったようです。 ▪️寝だめ、スマホ、真っ白な照明。睡眠は生活の中にある 休日にたくさん寝て、来週分の睡眠を貯金できるのか。答えは できない 。休日に長く寝ているなら、それは未来への貯金ではなく、平日の睡眠不足を返済しているのかもしれません。 休みの日は昼過ぎまで寝る、という参加者とのやり取りもあり、ここでも急に講義が生活の話になっていきます。 特に盛り上がったのが 「寝る前のスマホは絶対禁止なのか」 という話。スマホそのものを悪者にするのではなく、ショート動画、SNS、ゲーム、チャットなど、次々と刺激が入ってきてやめにくい使い方に注意する。一方で、リラックスする音楽を流すなど、使い方によっては一律に禁止する必要もない。 すると「スマホがあるとショート動画を見てしまうから、寝る時は別の部屋に置いています」という参加者まで登場。すかさず「もうそれが一番いいです」と返すなど、睡眠講座というより生活改善作戦会議のようになっています。 さらに話は照明へ。朝は朝らしく明るく、夜は夜らしく暗くする。「寝る前のスマホ」には敏感なのに、夜中まで真っ白な天井照明を最大出力で浴び続けている人は意外と多いらしく、 「この世は明るすぎる」 という謎の熱量が発生します。 ▪️寝酒とエナジードリンクと、「全部禁止」にはしない話 寝つくためのお酒は睡眠にいいのか。これは×。カフェインはコーヒーだけでなく、紅茶や緑茶、エナジードリンクにも含まれているので、量だけでなく 摂る時間 も考える。 エナジードリンクの話では学生から「めっちゃ飲みます」という申告が飛び出し、話し手自身も学生時代、テスト前に頼った記憶がよみがえります。 とはいえ、スマホもカフェインもお酒も、「全部ゼロにすれば健康です」と単純化したいわけではないらしい。好きなものを完全に禁止したストレスの方が大きくなれば、それもまた生活としてはうまくいかない。 一般的な情報を知ったうえで、自分の身体で様子を見て、 自分なりのちょうどいいところを調整する 。分からなければ医療者を頼る。結局、薬の話から始まった講座と睡眠の話は、同じ場所に着地していったようです。 ▪️締切だけが人を動かし、ライブだけが異様に楽しい なお、この大量のスライドは開始直前まで修正されていた模様。一夜漬けについて講義している本人も、締切が迫ることで突然すさまじい力を発揮するタイプです。 そこから「計画的にやれる人」と「締切が自分を動かしてくれる人」の話になり、さらに 「約束が先、実働が後」 という人生観らしきものまで出現。ポッドキャストが火曜・木曜に続いているのも、先に配信日という約束を作ったからなのではないか、と自分の行動原理を観察しています。 それでも、資料を調べるのも、スライドを作るのも苦ではなかった。なぜなら、その先に参加者との ライブの掛け合い があるから。 講義が終わったあとに残ったのは、「疲れた」よりもかなり強い「楽しかった」だった様子。今後はアンケートで次に聞きたいテーマも集める予定で、しかもこの大人向け講座は毎月開催されるらしい。 薬剤師として積み上げてきた知識、相手の反応を拾うことが好きな性格、締切直前の謎の馬力。その辺りが思いがけず一か所に集まった初回講座。本人もまだ少し興奮したまま、次に何を話そうか考え始めているようです。






